- 天野勝
バリューストリームマッピングワークショップ5つのポイント

出典:『リーン開発の本質』図4.3
こんにちは、天野勝です。
先日、バリューストリームマッピングの進め方について質問されることがありました。
これを機に、再度勉強しなおし、私なりにバリューストリームマッピングワークショップをどのように進めているかを整理してみました。
はじめに
私がバリューストリームマッピングのやり方を学んだのは、書籍『リーン開発の本質』です。この書籍を読み、自分でバリューストリームマップを作ったり、研修の中で受講者の方に作ってもらったり、コーチングの現場で作ったりと、少しずつ知見を積み重ねてきました。
次に紹介する5つの項目が、私がバリューストリームマッピングワークショップを進める際に気にしているポイントです。
《1》顧客に届ける価値の流れを理解している参加者を集める
バリューストリームとは、直訳すると「価値の流れ」です。『リーン開発の本質』によると、以下の様に説明されています。
「バリューストリームマップは、常に顧客から始まり、顧客で終わる」
「バリューストリームマップには、時計の開始から終了までに発生する主要なイベントを時間軸に並べる」
何についてのバリューストリームを描くかによって、そのバリューストリームを理解している参加者を集めます。一人で全体を把握できているならば、参加者は1名でも良いかもしれません。が、たいていの場合、複雑になっているので、そのバリューストリームに参加している方たちを集めるのが良いでしょう。当然のごとく、人数が多すぎるのも困ります。ホワイトボードや模造紙などを使ったアナログな環境では、物理的な制約があったので参加者の上限がなんとなくわかったのですが、デジタルツールを使って、それぞれ別の場所から参加して描く場合は、参加者が多いこと関しての制約はあまり感じなくなりました。参加する方の稼働時間(コスト)に対して、リターンは考える必要はありますが。
研修でバリューストリームを作ると、受講している方が理解している範囲は具体的に描けますが、理解していないところは想像で補いながら描くことになります。そのため、バリューストリームの正確性は少々欠けているのだろうと推測しますが、それでも多くの場合、ムダを認識するだけならば、大いに役立っています。
《2》時間軸の始まりと終わりを決める
前述で引用したとおり、「バリューストリームマップは、常に顧客から始まり、顧客で終わる」ので、まずは顧客が誰なのかを明らかにします。
顧客が決めたら、続いて終わりの状態を決めます。例えば「顧客に納品したら終わり」なのか、「顧客の課題が解決できたら終わり」なのかです。これを決めるのに、思いのほか時間を費やすことになりがちです。
《3》後ろから描く
スコープを決めたら、時間軸の後ろから描きます。
リーンは、トヨタ生産方式の研究から生まれてきてた考えです。トヨタ生産方式では「プル」という概念があります。前からプッシュ(押し込む)のではなく、後ろから引っ張るイメージです。
後ろから考えていったが、早い時間で本質的なバリューストリームが描きやすいです。
例えば成果物を作ったときに、その成果物をレビューして、レビュー報告書を作るというような作業があったとします。このレビュー報告書は、作って終わりになっている場合が多く、最終成果物につながっていないことがあります(品質基準によってつなっがっていることもあります)。実際に行っている作業なので、最終的にはバリューストリームに表現したほうが良いですが、時間軸の先頭から終わりまでの繋がりを表現するには、はじめのうちはなくてもよいです。
《4》まずは粗い粒度で作る
『リーン開発の本質』では、「目標は、1 〜2 枚の紙に、顧客が注文してから、顧客が満足するまでのプロセスを10 個程度の大まかなステップに分けて、マップに描くことだ。」とあります。さらに「どのようなフォーマットであれ、ムダについての洞察に満ちた議論を生む。フォーマットはさほど重要ではない。ムダの識別に役立つのであれば、許容能力や欠陥率についての表記法を決めるとよいだろう。」とも書かれています。
(先日、質問を受けたときは、「7個と書いてあったと、嘘を伝えてしました。)
研修では、まず10分間で作ってもらうのですが、半分くらいの人は10分もあれば、大まかなステップを描いて、最初から最後までつなげることができます。もう半分の人は、ご自身が知っている知識をすべて吐き出そうとして、自身が関係している作業を洗い出そうとして、時間がまったく足り無いという状況になります。
長い時間を使えるワークショップでは、作り方だけ説明して、粒度の話をしないことがあります。このような状況では、ほとんどの場合、自分の知っているところを掘り下げるばかりで、組織をまたぐインターフェースはさらっと描かれて、つながっていることが分かりにく言ことがあります。
限られた時間を有効に使うには、まずは最初から最後までをつなげて、そこから必要に応じて、詳細化していきます。
《5》目的を決める、何度も確認する
最後のポイントは、バリューストリームを描くための目的を、ワークショップ参加者で決めることです。しかし、最初に目的に合意しても、バリューストリームを描くことに熱中してしまうと、詳細に描きだして、当初の目的を忘れがちです。適宜、目的を思い出してもらうようにします。
バリューストリームを描くのは、より上位の目的を達成するための手段になることが大半だと思います。上位の目的の例としては、「ムダ時間を取り除くことで時間を短縮する」「スループットの目標値に合わせたリソースのコントロールをできるようにする」「新しいリソーを導入した時の成果のシミュレーションをする」「新任の経営者が素早く業務全体を理解する」など挙げられます。
このような目的に合わせて、バリューストリームを描く目的も決めます。上位の目的が「ムダ時間を取り除く」ならば、バリューストリームを描く目的は、「ムダを特定する」ことになります。上位の目的が「新任の経営者が業務全体を理解すること」ならば、バリューストリームを描く目的は「どのような活動を、どこで行ない、どこで価値を生み出しているかを表現する」ことになります。
バリューストリームを描く目的に合わせて、アクティビティの粒度やアイコン、流れの種類(モノ、情報)など描き分けます。
おわりに
バリューストリームマッピングワークショップを行なう際に、私が気を付けているポイントを5つ紹介しました。
バリューストリームマッピングワークショップのファシリテータを務める方の参考になれば幸いです。